森の 夕餉

道内産の食材をふんだんに使用した,こだわりのメニュー
Apr. 29, 2012.
- 食前酒(カルフォルニア白ワイン)
- 有機人参のスープ
- 天然酵母の烏賊墨バゲット、アボカドのムースを添えて
- 南瓜とクリームチーズのピュレ
- 春菊と豆腐ソースのカクテル
- 白身魚(鯛)と帆立貝のポワレ ─ 山葵風味
- 温野菜とローストビーフのサラダ仕立て
- 時鮭(厚岸産)のムニエル ─ 魚貝とサフランのブイヤベースソース
- ウニとアワビの炊き込みご飯
- お宿かげやまのプリン
- お茶(鹿児島産)、珈琲あるいは紅茶
いつになく雪深く氷点下30度の残雪が圧縮した氷山と化し、しぶとく立ちはだかっていたのがウソのように、ここ数日の雨と陽気で一気に消えてしまった。
今シーズン初めてお客様をお出迎えするにあたって、お客様の足元を安全に確保しておかねば!と、かなり意気込んでいた巨大氷山との格闘であったが、違う意味で出鼻をくじかれた。
何はともあれ、今季も初日から、お顔馴染みの常連のお客様をお出迎えし、再開(再々再会!)できることは、うれしくありがたい。
本日お出迎えするお客様もオープン当初から足を運んで下さる関東からのお客様で指折り数え10年来のお付き合いだ。
前回は半年前の秋の頃に会社の同僚女子組三名様ということでおいでになったが、今回はご主人とお二人での貸切。
例年であれば、初物として摘み立てクレソンをサラダで食して頂くのが楽しみでもあるのだが、今年は成長がゆっくりで、あと4~5日というところだ。
本日は店頭に並ぶ北海道産の素材を調達してきて仕込みにとりかかる。
本日の一押しは白身魚と帆立貝のポワレ。
白身魚を違う角度からポワレ風にしてお出ししたいと考えていたこの頃であったが、今日は鯛に生の帆立貝とマッシュルームを巻き込み、ロール状にした鯛の表面はカリカリの焼き加減に、包み焼きされた帆立貝とマッシュルームはレアな食感を山葵のソースでお召し上がり頂くポワレ仕立ての一品に完成した。
メインには厚岸産の時鮭(トキシラズ)のムニエル。
ちょうど旬を迎えたアサリ(網走産)の旨みを煮詰め、サフランとチャイブで香り付けしたソースと共にお召し上がり頂いた。
雪の大きな塊がなくなったことで視界が拡がったせいか、道東にも春がきたなぁ、とふと実感する。
目を凝らすと樹木には小さな芽がいくつも連なり、茶色の地面にはうっすらと緑色の産毛のようにアイヌ葱の芽の絨毯、沢には水芭蕉、福寿草、水仙が咲く順番まちをするかのようにスタンバイしている。
耳を澄ますと、うぐいす、オオジシギ、カエルの鳴き声、ほかにもいくつもの生き物たちの気配の声が重なりあっている。
これから初夏に向けての美留和は動植物たちの圧倒的な生命力を目の当たりにする命の時に突入してゆく。
Apr. 29, 2012.
- 食前酒(カルフォルニア白ワイン)
- 有機人参のスープ
- 天然酵母の烏賊墨バゲット、アボカドのムースを添えて
- 南瓜とクリームチーズのピュレ
- 春菊と豆腐ソースのカクテル
- 白身魚(鯛)と帆立貝のポワレ ─ 山葵風味
- 温野菜とローストビーフのサラダ仕立て
- 時鮭(厚岸産)のムニエル ─ 魚貝とサフランのブイヤベースソース
- ウニとアワビの炊き込みご飯
- お宿かげやまのプリン
- お茶(鹿児島産)、珈琲あるいは紅茶
いつになく雪深く氷点下30度の残雪が圧縮した氷山と化し、しぶとく立ちはだかっていたのがウソのように、ここ数日の雨と陽気で一気に消えてしまった。 今シーズン初めてお客様をお出迎えするにあたって、お客様の足元を安全に確保しておかねば!と、かなり意気込んでいた巨大氷山との格闘であったが、違う意味で出鼻をくじかれた。 何はともあれ、今季も初日から、お顔馴染みの常連のお客様をお出迎えし、再開(再々再会!)できることは、うれしくありがたい。 本日お出迎えするお客様もオープン当初から足を運んで下さる関東からのお客様で指折り数え10年来のお付き合いだ。 前回は半年前の秋の頃に会社の同僚女子組三名様ということでおいでになったが、今回はご主人とお二人での貸切。 例年であれば、初物として摘み立てクレソンをサラダで食して頂くのが楽しみでもあるのだが、今年は成長がゆっくりで、あと4~5日というところだ。 本日は店頭に並ぶ北海道産の素材を調達してきて仕込みにとりかかる。 本日の一押しは白身魚と帆立貝のポワレ。 白身魚を違う角度からポワレ風にしてお出ししたいと考えていたこの頃であったが、今日は鯛に生の帆立貝とマッシュルームを巻き込み、ロール状にした鯛の表面はカリカリの焼き加減に、包み焼きされた帆立貝とマッシュルームはレアな食感を山葵のソースでお召し上がり頂くポワレ仕立ての一品に完成した。
メインには厚岸産の時鮭(トキシラズ)のムニエル。 ちょうど旬を迎えたアサリ(網走産)の旨みを煮詰め、サフランとチャイブで香り付けしたソースと共にお召し上がり頂いた。 雪の大きな塊がなくなったことで視界が拡がったせいか、道東にも春がきたなぁ、とふと実感する。 目を凝らすと樹木には小さな芽がいくつも連なり、茶色の地面にはうっすらと緑色の産毛のようにアイヌ葱の芽の絨毯、沢には水芭蕉、福寿草、水仙が咲く順番まちをするかのようにスタンバイしている。 耳を澄ますと、うぐいす、オオジシギ、カエルの鳴き声、ほかにもいくつもの生き物たちの気配の声が重なりあっている。 これから初夏に向けての美留和は動植物たちの圧倒的な生命力を目の当たりにする命の時に突入してゆく。
Aug. 10, 2012.
- 食前酒(カルフォルニア赤ワイン)
- 根菜(蓮根、山芋、牛蒡)のスープ
- 自家製天然酵母パン、帆立のバゲット
- 木の子と白身魚(網走産鰈)の包み焼
- 野菜ピクルスと蛸のソテー
- 大根のサラダ
- 夏野菜のミルク煮
- 摩周産そば粉の手打ちパスタ
- フィレ肉(池田牛)のソテー - ラズベリーのソース
- ポルチーニと玄米のリゾット
- 白玉、ほうじ茶ゼリーとお豆の盛り合わせ
- お茶(鹿児島産)、珈琲あるいは紅茶



たかが車が 10 台ほど連なる光景を渋滞と呼んでいいのか分からないが、ここ数日弟子屈は、道路が騒々しく、活気づいている。 ふいに目と耳が刺激され、日頃とは異なる道路の賑やかさにお盆に突入したことを知らされる。 それでも国道から数本奥まった美留和は変わることなく小さな生き物から動植物の賑わいと彼らが謳歌する季節の只中。 本日のお客様は昨日からお泊りのお顔馴染みのお客様。 今回は親しくされている関西からのご友人をお誘いになり 3 泊の予定でお越し下さった。 今日は、とあるハプニングから斜里岳登山を断念、急きょ釧路川カヌーツアーに変更、夏の不安定な雨模様のなかお出かけになったが、カヌーに乗る間は雨があがり、終わってから降るという、絶妙な天候を縫うようにアウトドアを楽しまれ(例え仮に大雨でも、物ともされなかっただろうが)他にも危機一髪で物事が好転したことなど教えて下さり、「晴れ女」(天照大御神)が言葉だけではなく現実にあることを信じてしまいたくなるような偶然の出来事も、旅のおもしろさを倍増させるエッセンスになったようで話が弾んだ。 さて、本日の一押しは、木の子と白身魚(網走産鰈)の包み焼。 刺身幅にスライスした鰈でソテーした木の子を包み蒸し焼きにした一品。 レモン、サワークリームとマヨネーズのソースとともにお召し上がりいただいた。 他には、地場産の野菜が出回るこの時季ならではの夏野菜のミルク煮。 ピュレにしたジャガイモと玉ねぎをソースにし、ブロッコリー、ズッキーニ、蕪をグラタン風に焼き上げたもの。 思いのほかお喜び頂いたのがポルチーニと玄米のリゾット。
メインには厚岸産の時鮭(トキシラズ)のムニエル。 マツタケと風味がよく似たポルチーニとマッシュルーム、玉ねぎのみじん切り、玄米をオリーブオイルでソテーし、スープを合わせ、オーブンにかけリゾットにした一品。 仕上げにたっぷりのパルメザンチーズを合わせてお出しした。 デザートは北海道十勝産の豆(白花豆、小豆、金時豆)とほうじ茶ゼリー、白玉の盛り合わせをご用意した。 2日目の夜もお食事とともにお二人の充実した会話のご様子から、豊かさが溢れ出し宿の空間隅々にまで拡がった。 カヌーのまなざし(水面に近い目線)からの自然の新たな気づきから動植物、食べ物、北海道の大地に根づくアイヌ文化の知恵の奥深さ、各々の日常のことに至るまであれこれと尽きそうもないご様子に、水をさすのがもったえなくて、時計の針の時間から解放できるものなら・・・と思った。 宿のオープン当初からの、かれこれ10年ものお付き合いで、これまでにご主人、お母さん、ご友人などをお誘いになり度々お越し下さっていることを振り返ると感慨深くもあり、と同時に、ついこの間のことのようでもあり、時の流れの不思議さ、身体の中に積もる、時計の時間とは異なる次元の時間の感覚が確かにあるように思えた。 これまでも、そして、これからも、多くをとりこぼしてしまう時間や感覚であり続けることであろうが、身体に積み重なっていくだろうことを思い、月並みではあるが、健やかでいたいものだ、とつぶやく宿主であった。
Apr. 30, 2012.
- 食前酒(カルフォルニア白ワイン)
- 有機人参のスープ
- 天然酵母の自家製バゲット、つぶ貝のバジル和えを添えて
- 摘み立てクレソンのサラダ
- ピーマンと海月のお宿かげやま風マリネ
- 春キャベツとレバーパテのミルフィーユ
- 知床鶏、むね肉のソテー、胡麻ソース
- 海老と帆立のガレット、サルサソース
- 鰊(網走産)のムニエル、サラダ仕立て - バルサミコソース
- 十六穀米
- 紀州の南高梅
- お宿かげやまの栗とお芋のモンブラン
- お茶(鹿児島産)、珈琲あるいは紅茶


雪解け水の沢の流れが緩やかになり、ふきのとうに代わり水芭蕉が互い違いにピンと背を伸ばして存在感をアピールするようになった本日のお客様はお顔なじみのお客様。本日もご夫婦お揃いで約400kmの長距離をはるばるお車でお越し下さった。たびたび足を運んで下さること、そして新しい季節の始まりの再会に嬉しさをかみしめた。今シーズンの宿のオープンに合わせ、2週間前からレーズンでの酵母おこしを始めたが、ようやく、いい具合に発酵が進んだ。昨日に引き続き今晩のバゲットも焼きあげたい時間から二次発酵までの時間を逆算して仕込んでいくが、何せ酵母のご機嫌や気温、湿度とのコラボ。そう、やすやすとこちらの都合通りにはいかない。小さな生き物を相手にしており、酵母さんの都合が優先だ。焼きあがるパンにほどよい膨らみと味わいを持たせる発酵加減を探りながらの仕込みとなる。宿主の焼き上げる弾力性豊かなパンにもさることながら、今の芽吹きの季節のご馳走と言えば、何といっても沢に自生し始めたクレソン。これから霜が降りる初秋の頃まで食せるが、この時季のクレソンは、特に美味しい。特有のピリリとした風味が濃く、柔らかく瑞々しさが際立つ。メインには網走産の鰊のムニエル。蜂蜜とたまり醤油を隠し味にしたバルサミコのソースを添えてお召し上がり頂いた。鰊を頭からしっぽまで丸ごとムニエルにして頂けるのは、ここ北の地ならではの旬の素材のお陰。デザートには栗と紅あずまのモンブラン。
お芋の風味を損なわないようオーブンで蒸し焼きにした紅あずまは丁寧に裏ごしをして、粗く刻んだ栗と合わせ、北海道産生クリーム、バニラビーンズ、和三盆糖で味を調えた。そして生みたて卵と根釧牛乳で固めに作ったカスタードクリームを包み込むように絞って形を整えた。和やかに夜が更けていき、朝食用の天然酵母パンの仕込みをする頃、クレソンを摘みながら味見に夢中になるやら、かじかんだ指先に頭まで麻痺して油断をした隙にブヨに刺された傷口が3倍くらいに腫れ上がっているのに気づいた宿主、急に激しく痛痒くなってきたようだ。たったの一箇所、わずか針穴のように刺されただけでこんなに腫れて痒いなんて・・・なんて人間はか弱いのだろう.。自然の同じ土俵で他の生き物たちのように無防備にさらすには人間は軟すぎる生き物なのかもしれない。油断をした隙に襲ったのがクマだったら即死だろうけど、これが自然の中にいるということ。本物の自然の中でふいに試されるこんなとき、都会の整備され、自然の危険や不快を出来る限り排除し、均された空間の中で過ごしていることが、実は、とても保護されていることに気づかされる。ブヨに刺されたときくらい、やみくもに自然崇拝をすることなく、また都会を信仰することもなく、自分たちの置かれている足場をいったんリセットして見つめたいと思う。
Aug. 25, 2011.
- 食前酒(カルフォルニア赤ワイン)
- 根菜(蕪、牛蒡、山芋)のスープ
- 烏賊の肝とフレッシュトマトソース和え
- 有機人参のカポナータ
- 北海しま海老とアボカドのカクテル
- 春菊と胡麻クリーム豆腐
- 鱈(網走産)のボンファム
- 大根のサラダ
- 黒毛和牛(生田原産)ロースステーキ - ラズベリービネガーとハーブのソース
- えびすかぼちゃのモンブラン、シナモン風味
- ご飯(ななつぼし)
- お宿かげやまのレアチーズケーキ
- お茶(鹿児島産)、珈琲あるいは紅茶


毎夏の闇夜の密かな楽しみ、沢の蛍火の鑑賞も今年は束の間、あっという間に蛍たちは影をひそめ、ここ4~5日で急に涼しくなった。露天風呂では、目が回って気絶するのではないだろうか、と心配してしまうほど恐ろしく見事なアクロバット飛行を披露するトンボたちが飛び交うようになり、夕方には秋の虫の鳴き声が響くようになった。本日のお客様は昨日から連泊をして下さっている3名のお客様で全館貸切。お宿かげやまには珍しく、男性3名さまでのご来館。ご年配のおひとりは北海道を初めて旅されるとのこと、しかし、ご予約を下さった代表の方は北海道を何度もご旅行されており随分お詳しく、1週間の旅の予定も代案を含めたポイントや楽しみをおおまかに押さえておられるのみ、是が非でもプラン通りに、というのでもなく、体調や天候、その時々の気分に合わせ自由自在に足の向くまま旅をする・・・というような気持ちにゆとりのある、その土地を知り、旅慣れた方ならではのご旅行を楽しんでおられる。今日のご予定は根室方面に向かうとのこと。しかも、目的がおもしろく、素敵だ。その初めての方のたってのご希望が、北海道を取り囲むそれぞれの海に手を浸すことであるらしく、その方のために根室の先端、そこで太平洋の海を制覇させてあげたいとのことだった。お昼過ぎからお天気が雨模様。余儀なく当初の予定を変更されたかもしれないな・・・など、気にしながら、お客様の、もしかしたら、残念なお気持ちで帰っていらっしゃったときに、温泉でほっくりしてもらおうと、お湯加減のチェックにも余念なく、温泉と厨房を行き来しながら仕込みにとりかかった。夏のシーズンは地場産の野菜が豊富に手に入るので、そんな瑞々しい野菜たちに力をもらうような思いからも創作意欲が増す。
本日のメニューもそんな野菜をふんだんに取り入れ、丁寧に調理してゆくこととなった。メインには、オホーツクの太陽と清い水の環境下で育てられた、赤身と脂肪のバランスに定評のある生田原産のステーキ。レアの焼き加減に、ラズベリービネガーと自家製のイタリアンパセリのソースを添えてお出しした。付け合せには弟子屈町産のえびすかぼちゃを裏ごしし、バター、塩胡椒、生クリーム、シナモンで味を調え、ローストしたアーモンドを合えたもの。ラズベリーとハーブの甘酸っぱいフルーティな香りと、アーモンドとシナモンのこおばしさと食欲をそそる香りが舌だけではなく鼻腔、口腔でも味わえる一品となった。デザートには甘みを抑え、レモンの酸味をきかせたレアチーズケーキ。庭から摘んできたハスカップとミントを添えてお出しした。今しばらく続く旅の中盤に向け、いくつもの小さな楽しみをそれぞれに持ち寄って、まるで作戦会議でもするかのように、あれこれ思案されているご様子がほほえましく、実際に行動し、体験にもさることながら、予定を思いめぐらすことも含め旅の支度が醍醐味であることをしみじみと思っていると、お客様がお宿かげやまにくることになったきっかけを話しておられた。数年前、十勝の宿先で泊まり合わせた別のお客さんに「死ぬまでに一度は行ったほうがいいですよ」と言われたとのこと。なんとまぁ、大袈裟すぎる褒め言葉に恥ずかしいやら茫然とするそんな宿主を目にし、すかさずもう一人のお客様が「オレなら絶対誰にも教えない!」とさらに親しみを込め大盤振る舞いのフォローを下さり、たじたじになるやらお礼の気持ちでいっしょくたになる宿主だった。
Sep. 6, 2011.
- 食前酒(カルフォルニア白ワイン)
- 根菜(蕪、牛蒡、山芋)のスープ
- 烏賊の肝とフレッシュトマトソース和え
- パプリカ三種と海の幸のカクテル(海月とつぶ貝)
- 自家製天然酵母イカ墨のバゲット
- スペアリブ(生田原産)のソテー - レーズンとアーモンドソース
- 知床鶏とレバーのペンネ
- 摘み立てクレソンのサラダ
- 白身魚(網走産、鱈)のムニエル - サフランのソース
- ご飯(ゆめぴりか)
- お宿かげやまの栗とお芋の金時
- お茶(鹿児島産)、珈琲あるいは紅茶


台風の影響でお天気が荒れているにもかかわらず、お顔馴染みのお客様が飛行機などの欠航を運よくまぬがれ、無事にご到着なさっている連日、本日のお客様もリピートのお客様、お一組さまで全館貸切。前回お会いしたのがついこの前のことだったような気がし、その時にお出ししたメニューをチェックしてみると、意外や3年前(2008年)のもう少し秋の深まった季節であったことがわかった。実際ご到着になり、お客様のお顔を見るやいなや、記憶の輪郭がより、くっきりはっきりと立ち上がってきた。さて、本日のメニュー構成も前回のメニューと重なることのないよう、あれこれ考え、素材と味のバランスを考え合わせた。どれもこれも一押しメニューとのことだが、我息子のように大事に扱っているレーズンで起こした酵母の自家製カリカリバゲットは、新鮮な烏賊墨を合わせた真っ黒のパン。味、風味もさることながら烏賊墨のせいかもっちりした食感が増す。また、宿主曰く、お客様の一瞬、ぎょっ!とされるような反応がうれし楽しいらしく、パン生地が真っ黒に馴染むまで時間と労力をかけて捏ねる。本日はずわい蟹のバゲットとしてお出しした。バゲットの真っ黒と蟹の真っ白のコントラストが鮮やかだ。メインには網走産の鱈のムニエル仕立て。しっとりと柔らかな白身の鱈は表面だけをカリカリに焼き上げ、サフランの香り豊かな黄色のソースと共にお召し上がり頂いた。
デザートには栗とお芋の金時。裏ごしした栗と鳴門金時芋に和三盆糖と生クリームだけで味を調えた素材の甘味が引き立つこの季節ならではの締めの1品。黒蜜で味付けした金時芋のかりんとうを添えてお出しした。ここ連日の雨風で樹木の枝や葉っぱは、床屋さんに行ったあとのように、すっきり整然としている。紅(黄)葉の季節を前に、吹かれて落ちたたくさんの葉っぱについ惜しむ気持ちが出てくるが、樹木や葉っぱはそんなことお構いなしに、嵐を潜り抜けたせいか、かえって精気を放っているように凛としてすがすがしい。当初、今日の旅程に組まれていたらしい「神の子池」は、お天気の都合で断念されたとのことだったが、明日は久しぶりのお天気の予定、きっと素晴らしい光景が広がっていることだろう。ある別のお客様がはじめて神の子池に行かれたとき教えて下さった第一声を思い出した。「こんなところに(湖)いったい誰がブルーシートを捨てたのかしら?」
May. 4, 2010.
- 食前酒(カルフォルニア白ワイン)
- 根野菜のスープ
- 帆立貝のカナッペ
- 手打ち蕎麦(摩周産そば粉)と胡瓜のパスタ
- グリーンサラダ
- 鱈(羅臼産)と絹豆腐の香味野菜仕立て - 黒酢と黒糖のソース
- 人参の蜂蜜とシェリービネガーのマリネ
- アボカドと海老のカクテル
- 鰈(釧路産)のムニエル - バルサミコソース
- 黒米のご飯
- 紀州の南高梅
- お宿かげやまの鳴門金時と茶花豆の和のデザート
- お茶(鹿児島産)、珈琲あるいは紅茶


長すぎる冬のせいか、春を向かい入れることをなかなか思い出せずに、まるで時が止まってしまったかのようなこの時季特有のまどろみに、ゆるやかに季節の移ろいを感じとれるようになってきた本日のお客様は、初めてお越し下さるご夫婦でのお一組様。初めてのお客様に関しては、ご年齢やご予約時のやりとりの印象と宿主の勘のようなものから、イメージを拡げ、メニューのおおまかな構成を数パターン組み立てて買出しに出かける。行った先々で素材との対話、あるいはかけひきと格闘が始まる。そうこうして出来上がった本日のメニューの一押しは、羅臼産の鱈と絹豆腐、干し椎茸を香味野菜と共にお召し上がり頂く一品。それぞれの素材に片栗粉をまぶし、たっぷりの鰹節でとっただし汁に潜らせ、ソースをからめてお召し上がり頂く。片栗粉で閉じ込められた鱈と絹豆腐の上品な味、ぷりぷりの肉厚の干し椎茸の旨みを個性ある香味野菜が引き立て、黒酢と黒砂糖を煮詰めたソースは全体の味と食感をひとつにまとめる。食感、味、食材の温度など、いろんな角度から楽しんで頂ける宿主お勧めの一品である。メインには釧路産の鰈のムニエル。これから夏に向けてお店に並ぶ定番の素材である。肉厚の鰈が手に入り、本日は特に焼き加減に神経を使ったムニエル仕立て。白ワインで蒸し焼きにした白菜を添え、バルサミコのソースと共にお出しした。デザートは鳴門金時芋と茶花豆の和のデザート。鳴門金時の味そのままを引き出したく、蒸さずにオーブンで焼いたのちに裏ごしをした。そして、手間隙かけて作られている淡く繊細な味わいの阿波和三盆糖で甘味を調えた。
黒砂糖ときび砂糖でコトコト柔らかく煮た茶花豆を盛り合わせ、鹿児島産の煎茶と共にお出しした。まろやかな苦味が癖になる香り高い鹿児島産のお茶は、芋の素材そのものと和三盆糖の上等な甘味を邪魔することなく、気分をほっとさせまた豊かにしてくれる。体調を崩し、病気になったことをきっかけに食事で体質改善をされているというお客様は、健康はもとより、生きるということ自体が食事を基本とすること、ある意味、食事の内容が人の生き方に反映するといっても過言でないくらい、お二人の放つ穏やかさとオーラは、身近で当たり前すぎる食事の価値観を問うた。個食(一人で食べる食事)が普通になりつつあるライフスタイルの変化や環境の変化は食事の内容に反映し、やむを得ない部分もあるけれども、皆で囲む食卓、手作りのお惣菜、季節の素材、動植物の命を頂いていること、それらが時間をかけて食事として目の前にあることを思い出せるよう、ときどきは手間隙をかけることを惜しまず取り入れながら色んな食の多様性を身体と五感で分かっておきたい、そして、何より楽しんで回りの人々と、あるいは環境と対話しながらの食事であってほしいなぁ・・・とふとつぶやく宿主であった。
Aug. 17, 2010.
- 食前酒(カルフォルニア白ワイン)
- 根野菜(蕪、牛蒡、長芋)のスープ
- 帆立貝の自家製バゲット(天然酵母)
- スペアリブのソテー - フルーツソースを添えて
- 摘みたてクレソンとグレープフルーツのサラダ
- アボカドと海老のタルタル
- パプリカのマリネ、フッレシュバジル風味
- レバーとキャベツのペンネ
- 鰈(釧路産)のムニエル - バルサミコソース
- 黒米と十六穀ご飯
- あさりの佃煮
- お宿かげやまの生みたて卵の柔らかプリン
- お茶(鹿児島産)、珈琲あるいは紅茶


強い陽の日差しの季節の只中、くもやトンボ、アブにブヨ、蛇、アリ、せみ、芋虫、毛虫、なめくじにかたつむり、みみずなどの生き物たちとそこらじゅうで出くわすようになり、ここはまるで生き物たちの渋谷のよう。地場産の朝採りの野菜たちも店頭に数多く並び、どこにいっても生命の息吹で溢れかえる季節に自然のたくましさと怖さを思い知る。シーズンに入り、顔見知りのお客様が続くなか、本日もオープン以来、決まってこの濃い緑の季節にいらして下さっているご年配のお客様お一組さまで全館貸切。毎年お着きになると開口いちばん、宿の庭の木々の成長に伴う風景の変化のことである。さて、本日も地場産の野菜をふんだんに取り入れ、自家製のハーブを使ったメニューで、宿主いわくどれもこれもお勧めの料理とのこと。長年のお付き合いのお客様のせいか、味付けや素材の組み合わせなどイメージしたメニュー構成はお客様のお好みに沿うものとなる。理屈や理由をなかなか口にしない宿主の不思議な勘とセンスであるように思う。
お客様は少量のお酒と共にお料理を楽しんで下さり、思いのほかデザートのプリンをとても喜んで下さった。本日のプリンは北海道の素材にこだわるお宿かげやまのまろやかプリン。標茶町のポロニ養鶏場の生みたて卵と別海の牛乳、北海道のてんさい糖が素材のとろーりなめらかプリン。宿主の秘伝レシピはさることながら、なんといっても北海道の水と風土、大地に育まれた濃い味の牛乳と卵が上等なので、やはり美味しくなる。老若男女問わず、お客様に大好評であるデザートの一品である。露天風呂からの星空を楽しみにされていたが、本日はお月様がぽっかり浮かぶ夜空に、月光の露天の風景を眺めて楽しんだことを教えて下さった。外の木々や植物の風景をまるごとあわせた宿の成長を、まるでわが子の成長を見守るかのようなあたたかで遠くを見つめておられるようなまなざしに触れ、力をもらい、またじーんとしてしまう宿主であった。