2004-09-25

アメージング・グレイスと北の国から・・・

チェックアウトの間際、今回は連泊でお越し下さった顔なじみのお客様が「ちょっとお願いがあるんですけれども・・・」と遠慮がちに切り出された。お客様のいつもの控え目で周囲にこころを砕いて下さるような様子や態度をちゃんと知っている宿主は「どうしたんだろう?」と少し心配な面持ちで伺ってみると、「実は今回色々とお世話になったお礼がしたくて・・・演奏させてもらってもいいですか・・・」と大事そうに抱えていらしたケースからトランペットを出された。そんな、お礼だなんて、とんでもない!という気持ちと、そう言うお客様からの突然のお申し出に、うれしい驚きで、むしろ、こちらの方が聴かせて頂きたいくらいです!という思いだった。ホールでくつろいでおられたもうお一組の顔なじみのお客様も分野は違うけれども音楽に携わる仕事をされているお客様で、もちろん二つ返事で一緒に聴かせて頂くこととなった。まず1曲目にアメージンググレイス。その曲自体の持つ美しさと吹き抜けの空間に響き渡るトランペットの音色と演奏の息使いに吸い込まれた。自然と涙ぐんでしまいそうな気持ちを逸らす言葉も捜せないまま、もう1曲は、北の国から・・・。全く違う役割や仕事を持ち、違うそれぞれの時と場所で生きている価値観も異なるであろう他人同士なのに、時間と空間のある1点で交わる場を共有し、似たようなこころの働きを持たせてくれた言葉を超える音楽の力に、時空を超えて遠くのどこかで繋がっているように感じた。掃除をする時も仕込みをする時にも、いつまでもトランペットの音色が耳とこころの中を反芻する一日となった。


2004-09-23

十日夜

秋空の拡がった昼の余韻を夕焼けの空に繋げ、だんだんと光や命の音が薄らいでいく頃、宿の大窓から見渡す夕方の空にお月様がぽっかりと浮かびあがっていた。秋分の日の今日は十日夜。これから満ちていく月はやや東よりの空に浮かび、丁度大窓が一枚の額縁の月の絵のように見え、足を止め得した気分でしばらく眺めた。美留和に来てから、穏やかな月の輝きが漆黒の闇を照らす情景を眺める機会が多くなった。都会から溢れる街灯やネオンの光も、それはそれで活動的で刺激的でお手軽で何と言っても便利で、そして時には必要で大好きなのだが、ずっと好きではいられないような気持ちが飽和してくるような感じがある。空の月からの光とそれに映し出される風景には、こころが惹きつけられ、解き放たれるような感じがある。月の光と音の速さにこころの働きがうまく調和するような感じがある。人の作り出す便利さや追求する利便性や合理性も凄いし、人の手では決して作り出すことの出来ない自然や魂は欠かせなくて、両方とどう折り合っていくかが大切なんだよなあ・・・と思った。お泊りのお客様が星と月を見に庭に出られたいとのことで「少ししたら街灯と玄関、厨房の電気を全部消しますから」とお客様の出入りされる頃合を見計らって電気のスイッチを消したり点けたりする宿主だった。


2004-08-25

秋の気配・・・

宿の大窓の向こう側がきらきらと眩しく、つい目を留めてしまう。さらさらと風に揺れている木々の葉っぱの隙間から零れる木漏れ日の光が無数の線の照明となって何だかいつもとは違う地面に見える。葉っぱが黄色くなり始めた白樺の木の下はいっそう眩しく感じた。美留和ではここ数日気温がぐーんと涼しくなり、陽の光と色が、空気の匂いと透明度が、流れる雲の速さが、空の色と高さがもう秋の気配。庭に出てみると、顔に当たる爽やかで涼しげな風は心地よくて、木々の葉っぱたちと同じように、いつまでも風に吹かれていたい気分になった。宿の玄関も、うさぎの暖簾と去年拾った落ち葉と松ぼっくりで、ささやかに初秋の装いにしてみた。この夏の暑かったその分、一段とくっきり鮮やかな紅葉に包まれるかもしれないことを思うと密かな楽しみが出来たようでうれしく秋の季節がだんだんと深まっていく自然の姿を丁寧に観て感じたいなあ・・・と思った。宿の庭のもみじの木の葉っぱにもオレンジ色に変わり始めているのをいくつか見つけた。