2004-10-27
初雪と鶴の佇まい
オレンジや紅の装いを楽しむことをしないままいっせいに樹木の葉っぱたちが落ちた。去年観た目の裏側に眩しさが残る迫ってくるような艶やかさは無く、今年のそれは台風による潮風の塩害の影響か樹木から溢れる精気も少なく、まるで病気になっているかのような、荒廃した風景に変わりつつあった今朝は、うっすらと所在無さげに降りかけたかのような初雪の景色が拡がっていた。美留和の今の空は青く、地上は柔和で明るい光に輝き渡っているのに、優しく包んであげれるほどの雪もないまま、元気をなくした剥き出しの植物や木々たちの姿が余計に際立った。買出しの途中の道端に今年も丹頂鶴たちが飛来し始めていた。秋の深まりを待たず冬の気配に佇む丹頂鶴たちも哀しげな感じがした。晴れた空の下、花びらほどの薄片で舞う雪の中、私たちにはどうすることもできない自然の在り方に畏怖の念を抱いた。樹木や植物たちはどんな自然環境の変化にさえもただただ沈黙して融合している。いつ何が自分の身に起こっても、そっくりそのまま許容し沈黙したまま融合できるだろうか・・・再び畏怖の念に包まれた。


2004-10-18
紅葉と降霜の季節
ここ4~5日で見渡す景色の配色がぐーんと落ち着き、秋が深まった。それに合わせるかのように朝晩は氷点下になることもあり、「寒いね。」が挨拶の代わりになるようになった。今朝は露天風呂の足元にうっすらと氷が張っている部分もあり、庭は辺り一面霜に覆われた。まだ紅葉を見納めしてないのになあ・・・と、自然の時の流れに上手く追いつけず取り残されたような気持ちのまま、お客様の布団を冬掛けにしたり、露天の足元の滑り止めのマットを敷いたり、冬支度の一歩を踏み出した。春と夏の境目や夏と秋の境目は穏やかで季節が移り変わりつつある時の風に心地よく吹かれるのだが冬を介す前後の秋から冬へ、冬から春への移り変わりの時期はなぜか気持ちが置いて行かれる。なんでだろう・・・?一年のうちでも一番好きな雪景色の冬だから出し惜しみに似たような気持ちの働きがあるのかなあ・・・




2004-09-25
アメージング・グレイスと北の国から・・・
チェックアウトの間際、今回は連泊でお越し下さった顔なじみのお客様が「ちょっとお願いがあるんですけれども・・・」と遠慮がちに切り出された。お客様のいつもの控え目で周囲にこころを砕いて下さるような様子や態度をちゃんと知っている宿主は「どうしたんだろう?」と少し心配な面持ちで伺ってみると、「実は今回色々とお世話になったお礼がしたくて・・・演奏させてもらってもいいですか・・・」と大事そうに抱えていらしたケースからトランペットを出された。そんな、お礼だなんて、とんでもない!という気持ちと、そう言うお客様からの突然のお申し出に、うれしい驚きで、むしろ、こちらの方が聴かせて頂きたいくらいです!という思いだった。ホールでくつろいでおられたもうお一組の顔なじみのお客様も分野は違うけれども音楽に携わる仕事をされているお客様で、もちろん二つ返事で一緒に聴かせて頂くこととなった。まず1曲目にアメージンググレイス。その曲自体の持つ美しさと吹き抜けの空間に響き渡るトランペットの音色と演奏の息使いに吸い込まれた。自然と涙ぐんでしまいそうな気持ちを逸らす言葉も捜せないまま、もう1曲は、北の国から・・・。全く違う役割や仕事を持ち、違うそれぞれの時と場所で生きている価値観も異なるであろう他人同士なのに、時間と空間のある1点で交わる場を共有し、似たようなこころの働きを持たせてくれた言葉を超える音楽の力に、時空を超えて遠くのどこかで繋がっているように感じた。掃除をする時も仕込みをする時にも、いつまでもトランペットの音色が耳とこころの中を反芻する一日となった。


