2004-09-23

十日夜

秋空の拡がった昼の余韻を夕焼けの空に繋げ、だんだんと光や命の音が薄らいでいく頃、宿の大窓から見渡す夕方の空にお月様がぽっかりと浮かびあがっていた。秋分の日の今日は十日夜。これから満ちていく月はやや東よりの空に浮かび、丁度大窓が一枚の額縁の月の絵のように見え、足を止め得した気分でしばらく眺めた。美留和に来てから、穏やかな月の輝きが漆黒の闇を照らす情景を眺める機会が多くなった。都会から溢れる街灯やネオンの光も、それはそれで活動的で刺激的でお手軽で何と言っても便利で、そして時には必要で大好きなのだが、ずっと好きではいられないような気持ちが飽和してくるような感じがある。空の月からの光とそれに映し出される風景には、こころが惹きつけられ、解き放たれるような感じがある。月の光と音の速さにこころの働きがうまく調和するような感じがある。人の作り出す便利さや追求する利便性や合理性も凄いし、人の手では決して作り出すことの出来ない自然や魂は欠かせなくて、両方とどう折り合っていくかが大切なんだよなあ・・・と思った。お泊りのお客様が星と月を見に庭に出られたいとのことで「少ししたら街灯と玄関、厨房の電気を全部消しますから」とお客様の出入りされる頃合を見計らって電気のスイッチを消したり点けたりする宿主だった。


2004-08-25

秋の気配・・・

宿の大窓の向こう側がきらきらと眩しく、つい目を留めてしまう。さらさらと風に揺れている木々の葉っぱの隙間から零れる木漏れ日の光が無数の線の照明となって何だかいつもとは違う地面に見える。葉っぱが黄色くなり始めた白樺の木の下はいっそう眩しく感じた。美留和ではここ数日気温がぐーんと涼しくなり、陽の光と色が、空気の匂いと透明度が、流れる雲の速さが、空の色と高さがもう秋の気配。庭に出てみると、顔に当たる爽やかで涼しげな風は心地よくて、木々の葉っぱたちと同じように、いつまでも風に吹かれていたい気分になった。宿の玄関も、うさぎの暖簾と去年拾った落ち葉と松ぼっくりで、ささやかに初秋の装いにしてみた。この夏の暑かったその分、一段とくっきり鮮やかな紅葉に包まれるかもしれないことを思うと密かな楽しみが出来たようでうれしく秋の季節がだんだんと深まっていく自然の姿を丁寧に観て感じたいなあ・・・と思った。宿の庭のもみじの木の葉っぱにもオレンジ色に変わり始めているのをいくつか見つけた。


2004-08-13

時空を超えてもっと遠くへ・・・

いつの間にか繁忙期に突入し、時間に追われるように毎日の業務をこなしている最中、「外の空気をちょっとだけ吸いに行こう!」と宿主に誘われた。部屋の空気の入れ替えをするのと同じように身体中の風通しがよくなるよう深い呼吸をしながら、近所のホッパーとポニーのサクラに逢いに行ってみた。遠くにいたホッパーだったが宿主に気づくと、近寄ってきた。伏目がちな憂いともいえる深く優しい目を向けられると思わず何度も頭をなでたくなった。ホッパーの目は目先のこと、目に写るだけのことじゃなくて時空を超えて遠くまで観て感じとっているような、そんな目をしてるように思えた。ふーっと肩の力が抜けた。遠くを眺めると、流れの速い雲の合間にぐーんと高くなったゆきあいの空が広がっていた。時間に流され目の前のことしか見えてないことのないよう、平和ボケしたり、「忙しいから」を最もらしい言い訳にして、こころが閉ざされないよう、こころの視線はもっと遠くに、地球の向こう側のこともこちら側のことも、自分に繋がってることとして観て考えるようにしておきたいと思った。飢えることなく、雨風暑さ寒さをしのげて、安心して眠れることが、当たり前のことではない現実があること・・・。ホッパーの目を見ていて一気に色んな思いが溢れた。新鮮な空気をたくさん身体に詰めて帰ろうとするとサクラが「私の頭も~!」と身体まで乗り出して派手にアピール。帰るに帰れなくなった宿主。笑いながら何度も頭をさすってあげた。