2020-09-23
たなごころ
白樺や蔦類の木の葉の色々がこの季節ならではの静謐な空気と混ざり合う。道端の植物は花を咲かせ、胡桃の木や山ぶどうの木は実をつける。葉っぱが枯れてゆくように農薬はもちろん化学肥料を与えずに育てられた自然栽培の食物は枯れたり発酵したりはしても腐らないと言う。また、例えばトマトは本来左右対称に実をつけるのに対し化学肥料をあたえてしまうと多くの実はなっても左右の数が狂ってしまうそうだ。「沈黙の春」「苦海浄土」「複合汚染」以降、約半世紀もの時を重ねた人に生じる心身の歪みは、さらにGEを始めとする人工的に作られる放射能、電磁波、気象、生物などの影響に対する自然としての身体からの叛乱なのであろうか。
家人の掌に摘み取られた山ぶどうの実が目に入るやいなや甘酸っぱさが体に広がり頼りない気持ちを引き締めてゆく。ふっくらふかふかの暖かさを放つたなごころが差し向けられるときの健やかさは見えない狂いの硬結をほぐす。祥月に、故父の爪の形や掌の輪郭が家人のそれと重なった。



2020-07-23
15の夜
pure love や「器用」「才能」の他にboldness(大胆)という花言葉をもつ撫子は少年Jの誕生花。「走れメロス」は分かるけど「人間失格」はよく分からなかった、と言うJは他者への配慮と気配りのできる優しい少年に成長した。人間失格の主人公や、他にも例えば田村カフカ少年のように、世界で一番タフな少年として家出するような意識を未だ持たずにすんでいられるのは単に偶然の恵み。これから先、いましばらく精神よりもやや先立って肉体がバリバリ生長をとげるときの心身の齟齬や得体の知れなさをうまく乗り切り、pure loveに大胆さを身につけた青年へと脱皮してゆけますよう願う。
思い出の中の15歳はつい最近のような気がするけれども、ほぼ4回も経験するに匹敵する時が経過しようとしていることに呆然としながら「15の夜」の歌を貼り付けた短いメッセージをJに送信した。


2020-05-03
揺れ
何かを考えたり、何かを言えば必ず言葉の軸が外に触れて揺れる。
昨日の今日なのに大きさと質が豹変するその振れ幅に自ら呑まれそうになり足元を確認する。感染症の不安と経済的な問題は一続きで、世界中の普通に暮らす人々に通じる自分のこと。根拠ある不安をいまいちど理解しなおし、できることを、少なくとも基本的なことは押さえておく。外に触れたときの違和感を押し流さない。明日どうなるかは分からないけれども今できることを種をまくつもりでこころを込めてやっておく。
鶯の声が響いた。
無垢な音の揺れが一瞬にしてここしばらくの悪酔いを均した。鼓膜の震えが身体と感覚がまだ大丈夫であることを覚えさせる。昨日の続きをいつものように精いっぱいやったら、鳥たちの声を心ゆくまで聴いていたいと思う。


