2008-12-12

雪遊びの季節

氷点下の寒空に拡がる静かで痛く冷たい無機質の風景が一夜にして雪化粧をした。昨日までの美留和は集落全体が古い時代の中にいるようで動物も人も息を潜めるように動かない、ものごともずーっと変わらない、そこに閉じ込められているぶん、それぞれの人たちがひとりひとりで自然の中に深く入っていくようだった。煽られない、刷り込まれることのない、受動的な刺激から隔離されたこのような環境で、全てを失ってしまったかのような今の時季特有の静けさの中に長くいると、自分の力を頼りにすること、自分の中から精神的なもの、知的なものを感じ取ること、自分の頭で考え抜いて自分の足でしっかりと立つことの必要性が浮き彫りになってくる。次々に移り変わる時間の流れの速さや、消費が次の消費を煽る都会のにぎやかさとは物理的に距離を置いてはいるものの、都会の便利さの一部を都合よく享受し、同じしくみの枠内にいて繋がっていることも確かで、全く切り離すことは出来ないけれども、お金にも物にも人にも、既存の宗教や主義、思想にも依存しすぎることなく、まずは自分自身の力を主体として、不足分を拝借するような共存あるいは交換がうまくできるようになるといいなぁ・・・と朝陽に照らし出された真っ青の空の下に拡がる贅沢な風景を眺めながら模索する。キラキラと眩しい銀色の雪景色に誘われるようブーツやスノーシュー、帽子、コート、アイスキャンドルグッズなどを次から次に机の上に並べて行く。こころがほくほく嬉しがり、1人遊びを始める。


2008-10-16

季節と風の贈りもの

青く高い空がどこまでも拡がる中、風は針葉樹独特の香りを運び、朝晩の寒暖差を持たせた大気は、樹々の葉っぱを日に日に鮮やかに彩らせる。待ちわびたそんな秋の季節到来の矢先、思いもかけなかった突然の来訪。お宿かげやまのお客様として度々足を運んでくれていた友人の妹さんご夫婦。初夏のハスカップが実をつけた頃他界した友人にそっくりの、初めてお会いする妹さんに彼女の面影が重なり夢をみていると同時に夢うつつの再会に嬉しさがこみ上げ増幅していく喜びに困惑した。旅の途中の少しの間にわざわざ探して立ち寄って下さったことに、彼女の思いがご家族や友人たちにきちんと伝わり理解され、そしてその思いが今も生きていることに確かな思いを抱く。ついこの前までの夏とも秋ともいえない中途半端な北の空の下の季節の変り目には、あまり明るいことを考えられないような面持ちになるが、秋の季節到来とともに予想をだにしなかった不意の来客の出来事は、この季節が好きだった彼女の計らいに思える。日頃から人の痛みや苦しみを吸い取ってしまうかのような性分だった彼女のお見舞いに行ったとき「(病気が)Gちゃん(彼女の夫)でなくて私で良かったと思うん。」とかみしめるように言っていたその時の声色と息遣いが耳の中で響いた。深まりゆく秋の風景の中、このうえない贅沢な気持ちに包まれながら、彼女が季節で、風で、そして愛であることを思う。


2008-09-06

ゆるりゆるり

今年はこころなしか初秋の気配が重たい。夏のエネルギーをいっぱいに受け、たじろぐことなく生のベクトルの方向に一目散に走り続けていた緑たちが行き場を失い、内面的にデリケートになっている印象。元気がなさそうに見える、またそれを気がかりにしているふうの緑たちに、「大丈夫、大丈夫」と声をかけるような気持ちで深呼吸する。生命力を少し緩めてもらったと思って、時の流れをゆるゆると感じるのもいい。そんなに生き急がなくても必ず、すっかり、本物の秋が巡ってくるのだから。時はたゆまなく、こともなく流れているから大丈夫。少しずつ葉っぱの色を変えゆっくりゆっくりと土に還っていきましょう。これからあとどのくらい時を重ねていくのか分からない、でもそう長くはない時の流れのなかで、自分の中のエネルギーの質が変容する時期に幾たびか、この緑たちに思いを馳せたちょっぴり強気な自分がいたことをきっと懐かしく思い出す時が来るに違いない。