2007-07-03

草のにおい

緑濃い初夏、酪農家が多く、牧草地が点在する美留和は1回目の草刈りの季節。一番刈りの牧草ロールが、ただっ広い牧草地に次々と増えていく。庭に出ると、どこかの干し草のにおいが風に漂っている。この干し草のにおいは、子供だった頃の祖母の家のにおい。皆に擁護され、慈み育んでもらえる、限られた短い夏のような幼児期の想い出には、いつも祖母がいた。子供の頃の、手放しの幸せの記憶の象徴。樹影の落ちる夕暮れ時のいつもの散歩道、草と牛の素朴なにおいを運んできた風の中に、静かでゆるやかな祖母の気配を感じ、生きていることの懐かしさのようなものにとりとめもなく包まれた。


2007-06-03

新緑の季節

6月に入った美留和では、競うように餌台に集まったり、庭の虫をついばみ、なかなか地面から頭を離さないでいる小鳥たちに加え、沢周りをぴょんぴょん飛び跳ねるエゾリス、隙あらば人に噛み付こうとするブヨや、理由もなくなぜか勝手に、ぎょっ!と驚いてしまうへびがまどろんでいる様子を目にすることが多くなった。白樺や柳の木々、ハーブや雑草に至るまでの植物は、長い冬の間はエネルギーをひっそりと押し殺し、雪解けの頃は木や草の芽どきの期間を溜めるに溜めて、何らかの合図でいっせいに飛び出すかのような勢いを持って次から次に芽吹き、ぐんぐんのびていく生命力に満ち溢れ、こちらが気後れしてしまいそうになるほどだ。北海道の6月は緑が一番綺麗で、特に雨あがりの緑は色んな香りで馨しい季節だ。弟子屈の地場産の野菜などもこれからお店に並ぶ季節。旬の野菜は美味しいことはもちろん栄養価も高く、そして何より生命力に溢れていて瑞々しさを見ているだけで元気がふつふつと湧いてくる。厳冬の最中でどこからかエネルギーを都合してかき集めてこなければ元気が湧かないような気分とは対照的だ。さて、今年のお宿かげやまの菜園には何を植えようか・・・とあれこれ想像しながら畑を耕してみた。


2007-04-02

風 花

美留和の春の背景はグレイ色。氷点下の眩しすぎるほど真っ白だった雪景色が今では灰色と茶色の割合の多い風景が拡がっている。本州の桜の花が開花する頃のぽかぽか爛々とした陽気な日差しはここにはない。雪って汚れるものだったんだ・・・と、この汚れを覆い隠すかのように降り続き幾重にも重ね真っ白にしてくれていた冬の雪がうわべの白さだったことに気づく季節。茶色や灰色に汚れた雪が地面に拡がる風景に気持ちまでどんよりしそうな最中、小片の綿雪の舞う景色はこの時期が故の際たつ醍醐味だ。冬の雪のように汚れを覆い隠すことをせず、ふわり、ふわり空中を心地良く漂ってグレイ色と化した風景に一縷の光をさすような儚さに思わず引き込まれてしまう。一足はやく芽吹いたねこやなぎと雪の合間にぐんぐんと顔を出しているふきのとうを見つけ、形や色や生命のたくましさに、ほほ笑ましいやら愛らしいやら、ふつふつと元気が沸いてくるときほっとする。