2007-02-25

Bonjour

地面はまだ凍りついて堅くなった雪で覆われているが、ここ数日で陽光の色合いと空気の張り詰め具合が目に見え、体で感じ取れるほど随分と和らいできた。昨夜から音楽の仕事をされているお顔馴染みのお客様が、今回はパイプオルガニストとしてフランスから来日されているご友人を誘いお越し下さった。宿の小さな空間にはフランス語と英語と日本語が融合して響き渡り、「分かり合う」ことを前提に丁寧に伝え、丁寧に受止めていらっしゃるご様子に聞き慣れないフランス語がBGMの音楽のように妙に心地良く拡がった。覚えたてのMerci beaucoup を伝える機会が巡ってきたことと、それが伝わったことにとても嬉しそうな顔の宿主だった。同じ日本人同士であれば育ちの多様さや違いが見えにくくなってしまうけど、もともとは違う個人同士。人が人を分かろうとするとき、既に半分くらいはそっくりそのままを受け入れる前向きな強さと力があるような気になる。人が人を分かろうとするそのこころ構えというかこころの在り方が、残り半分の「育ちの多様さ」を含めた理解するということにおいては決して完璧には成せない、そして言葉では追いつかない、それに代わる感覚、感知のようなものを研ぎ澄ましていくような気がする。そんなお客様の余韻を残す宿の大窓からの景色と流れる空の雲を眺めながら、もうすぐそこまで春がやってきていることを感じた。

沢伝いに溶けてきた雪


2007-01-11

氷点下の摩周湖の風景

新しい年を迎え、時を重ねるにつれて日常は人だったり、景色だったり、色んな出来事と出会って別れ、流されながらの積み重なりであることをつくづく思う。どんなに素敵な出会いでも、また逆に辛い出来事でも、細かい記憶はいつかは薄れ行くけれど、その時々の気持ちはこころに刻まれ染み込んで、色合いのような感覚としてふとした時、思いがけず懐かしい馨しさを伴って胸の奥をきゅっとさせたり、鼻の奥をツンとさせたりしながら滲み出てくることがある。好むと好まざるとに関らず降りかかる出来事や偶然の出会い、ご縁のようなものの繰り返しの日常の中で、なかなか難しいこともあるけど、こころは自由にしておきたい。そして、自分にとってキラキラと輝くような色合いの思い出になるであろう出来事もいつの日か記憶から遠ざかっていくであろうことは知りつつも、余韻とぬくもりが残っているうちは何度もこころの宝箱から取り出してはその時の思いや気持ちを転がしてみようと思う。流されていてもいつでも忘れていないことを願うような気持ちで。今日の摩周湖の風景に付随する思いもいつかどこかで懐かしく蘇ることだろう。


2006-10-20

秋を感じる

初夏から続いたお客様が一段落した秋晴れの静かな朝、お昼ご飯でも持って屈斜路湖沿いをサイクリングしよう、と突然宿主に誘われた。早速おにぎりとサンドイッチをこしらえ、熱い紅茶とおやつもリュックに詰めて、紅葉を楽しみに出かけてみた。今年は先日の低気圧で紅葉前に木々の葉っぱが落ちてしまい、そして、急に霜が降りたことから、紅葉を待たずして全体的に枯れ葉色の風景が拡がっている。お気に入りの池の湯林道でさえ例年の迫りくるような紅葉のシャワーや紅葉のトンネルの眩しさ、カラフルさは断然控え目で、冬の香りがうっすら漂っていた。何だか季節が急いでいるような、季節の移ろいに置いてき掘にされ取り残されてしまったかのような心細さを一瞬感じたが、サイクリングで受ける風が気持ちよくて、風を感じ風に耳を澄ませることに集中した。途中の川面は無数の鮭の遡上でキラキラと異様な輝きを放っていた。最後の力を振り絞り、命が尽きそうになりながらも、それでも上流に向かう姿に涙ぐんでしまうほどだった。鮭くんたち自身の最後の仕事を全うするこの光景はいつ見ても深く感動してしまう。果てしなく拡がる秋空と山並みが見渡せる眺めの良い牧草地でおにぎりをほおばった。ぽかぽか陽気の大きな風景の中、羊雲が色んな形に変化しながら流れていく景色を見つめ、心地良い風に吹かれながら足早に去って行きそうな今年の秋を感じた。